自分の「色」を見つける感動作!『雲を紡ぐ』【紹介25冊目】

- 小説
あまざけ
”あまざけ”と申します!
ブログ「としけば!」にようこそ!
筆者”あまざけ”はこんな人

  • 週に1冊、何かしらの本を読む
  • 紙の本派
  • 食品メーカーのシステム部門で働く
  • 小学生と幼稚園児の子どもがいる35歳

さて、今回紹介する1冊はこちら。


雲を紡ぐ (文春文庫) [ 伊吹 有喜 ]

東京から盛岡市の祖父の元へ家出当然で飛び出し、「ホームスパン」職人である祖父や親戚とともに羊毛を紡ぎ、「自分の好きなこと」、「自分の好きな色」を見つけていくという物語。

『雲を紡ぐ』

【著 者】・・・伊吹有喜
【発行日】・・・2022年9月10日
【頁 数】・・・424ページ

著者はどんな人?

三重県出身。尾鷲市生まれ 四日市市育ち。中央大学法学部法律学科卒。
1991年に出版社に入社し、雑誌主催のイベント関連業務、雑誌編集部を経て、フリーランスのライターに。

2008年『風待ちのひと』(改題 夏の終わりのトラヴィアータ)でポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。

2010年『四十九日のレシピ』を刊行。2011年ドラマ化され、2013年には映画化も。

2014年刊行の『ミッドナイト・バス』は第27回山本周五郎賞候補、第151回直木賞候補。2018年に映画化。

2017年刊行の『カンパニー』は2018年に宝塚歌劇にて舞台化。2021年にドラマ化。

2017年刊行の『彼方の友へ』は第158回直木賞候補、第39回吉川英治新人文学賞候補。名古屋の書店を中心にした全国有志の書店員による『乙女の友大賞』受賞。

2020年刊行の「雲を紡ぐ」は第163回直木賞候補。埼玉県の高校図書館司書が選んだ2020年のイチオシ本第一位。第8回高校生直木賞を受賞。

2020年刊行の「犬がいた季節」は2021年本屋大賞三位、第34回山本周五郎賞候補。

このほかに『なでし子物語』、『今はちょっと、ついてないだけ』、『地の星 なでし子物語』、『天の花 なでし子物語』、『BAR追分』シリーズなどがあります。

紹介にあたって

あまざけ
僕は「本の内容を不用意に掲載しない」ということを心掛けています。

小説の紹介なのでネタバレは厳禁!

このブログを読んでいただいているあなたに概要や見どころを紹介し、「本を買って詳しく読みたい!」と思ってもらえるような記事作りを目指しています。

物語の概要

本作の主人公は「美緒」という東京に住む高校二年生。イジられることが嫌で不登校に。

美緒は常に相手(同級生のみならず親に対しても)の顔色をうかがい、自分を取り繕って過ごした為に「自分の好きなこと、自分のしたいこと」が分からなくなる。

そんな美緒と周りの大人たちのそれぞれの悩み、葛藤。

壊れかけの家族関係を紡ぎ直すことはできるのだろうか。
「ホームスパン」という羊毛で作られた伝統的な毛織物で繋がる親子三代の「心の糸」の物語。

登場人物

岩手県盛岡市に住む祖父・紘治郎は「ホームスパン」という毛織物の職人。

紘治郎の跡を継がずに上京した父・広志。

「ホームスパン」とは。

「ホームスパン」とは、スコットランド発祥の羊毛を使った手織りの織物のこと。

日本には明治時代に伝わり、その伝統技法を現代まで受け継ぎながらニーズに合わせた織物を制作しています。
現在は岩手県盛岡市、花巻市周辺にのみ産業として残っています。

他の毛織物と比較にならないほどの暖かさ、肌に触れてもちくちくしない柔らかさ、複雑な色合い、抜群の耐久性を持った、毛織物の最高級品とのことです。

ホームスパンの原料となる羊毛のことを作中では「雲のような肌触り」「ホイップクリームみたいになめらか」と表現されています。

あまざけ
手作業だからこその優しい触感だと書かれています。一度、触れてその柔らかさを感じてみたいですね!

読み終わって。

風景の描写。人の感情の描写。
そのどれもが丁寧に書かれていて、綺麗な風景を想像できたり人間の辛い感情が伝わってきたりと、読み手を引き込む本となっています。

主人公は繊細で想いを言葉にするのが苦手。そして不登校の原因となった同級生からの「イジり、からかい」。
イジる側は「楽しいコミュニケーションのひとつ」という感覚で言っていることでも、受け取る側は「辛い、不快、イジメだ」と感じることって多々あります。

原因が解決していないのに、周りの大人は「とにかく学校に行かなきゃ何も変わらない」と無理に登校させようとする。

こういった部分を読んで僕が感じたのは「人は自分の基準で相手を捉えてしまいがち」ということ。

人にはそれぞれ「自分のペース」「自分の価値観」があるのに、それを理解しようとしない人は少なくありません。
そんな中、主人公のペースに合わせてくれる祖父の紘治郎。

以下は祖父・紘治郎が主人公の母親に対して言った言葉。

怖くて泣いている子どもに、怖くないよと言っても泣き止まないだろう。抱き上げて背中をさすってやれば泣き止む。同じだ。触ればわかる、心も伝わる。こわがらずに、もっとあの子の思いにしっかり触れてみてくれ。

「進路が決まらない」、「やりたいことが見つからない」、「自分の取り柄が無い」。

本作の主人公が高校生なので、同じような悩みを抱える高校生読者には共感できるのではないでしょうか。

「高校生直木賞」を受賞したのも頷けます。

『高校生直木賞』とは・・・
全国の高校生たちが集まって議論を戦わせ、直近一年間の直木賞の候補作から「今年の1作」を選ぶというものです。

本作は人の優しさや強さを感じることができるので、読んでいて涙が出ました。

高校生のみならず、子どもを持つ親、自分が何に向かって進んでいるのか分からない方など、幅広い人に受け入れられる本です。

本書(文庫版)の裏表紙

以上、『雲を紡ぐ』の紹介でした。

あまざけ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

Sponsered Link