今回紹介する1冊はこちら。
『世界インフレ時代の経済指標』
【著 者】・・・エミン・ユルマズ
【発行日】・・・2023年5月8日
【頁 数】・・・203ページ
Contents
こんな人にオススメします!
- 経済指標の種類や性質について知りたい方
- 経済の流れを掴みたい方
- 投資に役立てたい
- 経済について自分で考える力を身に付けたい方
著者はどんな人?
トルコ・イスタンブール出身のエコノミスト、グローバルストラテジスト。複眼経済塾取締役・塾頭。
16歳で国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。1997年に日本に留学。
東京大学理科一類に合格し、同大学院で生命工学修士を取得。
2006年野村証券入社、投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わった後、16年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。
書評にあたって
本というのは、著者からしたらいわば虎の巻。
核心に触れることを易々と引用してはいけないと僕は考えます。
このブログを読んでいただいているあなたに概要や見どころを紹介し、「本を買って詳しく読みたい!」と思ってもらえるような記事作りを目指しています。
本書の特徴
『個人が参考にできるような意見を述べる専門家が、この日本にはほとんどいません。』とは著者の言葉。
2008年のリーマンショック、1990年代の不動産バブル崩壊、そのいずれの場面においても専門家と呼ばれる人たちは口を揃えて「大丈夫です。深刻な景気低迷に陥ることは無いでしょう」などと楽観的な見通しを言いました。
特に「セルサイド」といって、アナリストやエコノミスト、ストラテジストと呼ばれる専門家は自分たちの商売が干上がってしまうリスクもあったからなのか、一貫して楽観的な見通しを言い続けていたのです。
これは日本も同じ。
専門家たちはボランティアで活動しているわけではありません。自分たちの利益のために活動しています。
例えば、銀行が金融商品を顧客に勧める場合、「利回りが良く見えるが実は手数料がバカ高い商品」を勧めてきます。
銀行も商売です。「顧客の利益 ≠ 販売側の利益」なので当然の結果です。
こういった理由も含め、著者は「参考にできる意見を述べる専門家がいない」と述べているのだと感じます。
だから今こそ経済指標を読み、自分で考えることが出来る力を身に付けよう、というのが本書の主旨です。
主要な経済指標の解説
米国12種類、諸外国9種類の合計21種類の主要な経済指標が紹介されており、それぞれの国の産業、消費活動の特徴を交えながら解説されています。
世界経済のトレンドを掴むには、米国→日本→中国→EUの順で経済指標に注目すればいいと書かれています。
なので、世界経済の牽引役でもある米国の12種、米国以外の主要国の指標が9種、紹介されております。
- 各指標の読み方
- 国の特徴を踏まえた経済への影響
- 指標と指標の関連性
などが、経済初心者にも分かり易く書かれています。
経済指標をひとつの「流れ」として見る
異なる国のいくつかの経済指標をひとつの「流れ」として見るセンスが大事。
例えば、TSMCに代表される台湾の半導体受注が落ち込んできたとします。そうすると、台湾に半導体の製造を多く発注している米国のスマホ・タブレット製造企業の業績が落ち込むかもしれない。
こういう連想が出来ます。
このように、「ひとつの経済トピックから連鎖して影響を受ける事柄は何か」ということを予想することができると本書には書かれています。
パラダイムシフト
日本は約30年という長いデフレ時代の終焉を迎えようとしています。
デフレ・低金利の時代はモノの値段が下がり、相対的に現金の価値が上がっていった時代です。
この章ではインフレになる要因を端的に解説しています。
著者はインフレが定着するであろう理由に、
- 米国の極端な量的金融緩和
- 独裁国家と民主主義国家の冷戦
- 日本の財政赤字
という3つを挙げています。
そして、インフレが続くであろう時代に私たちはどういう選択をすべきなのか、というアドバイスが続きます。
読了後:あまざけの考え
デフレが「当たり前」の日本
約30年続いたデフレーションがスタンダードになっている日本。
そのデフレが終わりを迎え、現在はインフレにより相対的に現金の価値は下がっています。
だからといって「今はインフレだから資産を円だけで保有するのはリスキー」と言われて合理的な行動に移せる人は限られています。
僕も含め、多くの人は今まで通り銀行に貯金し、値上げに耐えながら節約して過ごしています。
銀行預金も一種の「投資」なので減る可能性もある。
じゃあなぜ合理的な行動に移せないのかというと、「知らないから」だと考えています。
「投資?お金が減るかもしれないんでしょ?怖いから嫌だ」という具合に。
確かに投資はお金が増えることもある反面、減る可能性もあります。
じゃあ「現金」は減らないのでしょうか?
確かに「1万円」という数字は減りません。円という通貨が存在する限り1万円は1万円のままです。
ですが、インフレによりモノやサービスの価格が上昇すればどうでしょう。
今まで1万円で買えていたものが買えなくなります。これは相対的に「現金の価値が減った」ということになりますよね。
1950年頃の会社員の平均年収は12万円です。
12万円という「額面」は70年前も現在も同じです。
ですが、現在の会社員の平均年収は約400万円です。
これは「インフレによりモノの価値が上がり通貨の価値が下がったため、インフレに合わせて給料の額面を上昇させた」ということになります。
つまり「インフレ=その国の通貨の価値が下がる」なのです。
デフレ脳からインフレ脳へ
本来、経済というのはデフレとインフレを繰り返しながらも上昇していくものです。
デフレもインフレも経済成長には必要なものであって、どちらが良い・悪いというものではありません。
しかし現在はスタグフレーションという「モノの価値は上がるが給料は変わらない」という「悪いインフレ」です。
1955年前後からオイルショックまでの高度経済成長期のような、モノの価値と給料の額面が同時に上昇する「良いインフレ」とは違います。
高度経済成長期はモノの価格上昇に伴い賃金も増えていき、現在のように購買力が減少することはありませんでした。
そして地価も上昇したため持ち家が資産となりました。
しかし今はその時代とは大きく異なりますよね。
賃金は増えないのにモノの価格が上がり、持ち家は「負債」と言われることもあります。
「お金の勉強」をして、時代に合わせた経済活動を行うべき
だからこそ「お金の勉強」をして、時代に合わせた経済活動を行うべきだと僕は考えています。
もちろん「分相応」にです。
NISAなど政府も後押しする投資。それにより世間には投資に関する情報が溢れています。
どんなに素晴らしい情報でも、取り扱い方によっては毒にもなり薬にもなります。
僕たちは偏りなく知識を蓄え、自分の頭で考えて行動できるように勉強しなければならないと日々感じております。
本書のポイント
最後に本書のポイントをまとめておきます。
- 経済指標は、世界経済を端的に表している
- 自分で考えることが出来る力を付けるために経済指標を参考にする
- 「ひとつの経済トピックから連鎖して影響を受ける事柄は何か」ということを予想する
- 約30年という長いデフレ時代の終焉
- デフレ脳からインフレ脳へ
関連書籍
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