
今回紹介する1冊はこちら。
『ウマの科学と世界の歴史』
【著 者】・・・伊予原 新
【発行日】・・・2024年9月25日
【頁 数】・・・268ページ
著者はどんな人?
- 1972年、大阪生れ。
- 神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。
- 2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。
- 2019年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。
- 2024年、『宙(そら)わたる教室』が第70回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(高等学校の部)に選出、NHKでドラマ化され話題となる。
- 2025年、『藍を継ぐ海』で第172回直木三十五賞を受賞。
本書の特徴
5話の短編からなる本書。
東京大学大学院で研究していた著者だからこその科学的な視点で展開される各物語。その土地の文化や自然なども取り入れられており、自然科学に興味のある人にも刺さりそうな一冊。
第一話『夢化けの島』
舞台は山口県萩市の「見島」。
面積は7.73㎢。人口は574人(令和7年4月1日)。

久保歩美(32歳)は、自身も卒業した山口県内の国立大学で助教をしている。所属は理学部の地球科学科専門は火成岩岩石学。
岩石の分析で学生時代から幾度となく訪れている見島で、「萩焼」という焼き物に使われる見島土という赤い粘土を探す同年代の男性に出会う。
第二話『狼犬ダイアリー』
舞台は奈良県東部に位置する「東吉野村」。

フリーWEBデザイナーで、空き家バンクで見つけた東吉野村の盛田家の離れに住む30歳の”まひろ”という女性。
神戸出身で、社会人になり東京でひとり暮らしをしながらWEB制作会社で働いていたが、退職し東吉野村へ移住。
大家である盛田家の一人息子の拓己(たくみ – 小学3年生)と、この家で飼われている紀州犬のギンタ。
まひろと拓己が「山でオオカミを見た」というが・・・。
↓紀州犬

第三話『祈りの破片』
舞台は長崎県の「長与町」。長崎市街に接し、北には大村湾に面しています。

長与町役場に勤める小寺(32歳)という男性の所属は都市計画課の住宅係。
長与町の田之坂郷というエリアの住人から「空き家に不審な人間が出入りしている」と報告を受け、調査しに行く。
第四話『星隕つ駅逓』
舞台は北海道の「遠軽町」。その西部に位置する白滝地区。
遠軽町は2005年に当時の遠軽町、生田原町、丸瀬布町、白滝村の紋別郡3町1村が対等合併して新たに設置された自治体。

遠軽町に生まれ育った信吾は白滝郵便局に勤める38歳。妻の涼子は農場でアルバイトをしており、この農場は畑のほかに農業体験や小さな宿泊施設、通販事業を行っている。
『遠軽町白滝付近に隕石が落ちたかもしれない。』
「日本流星ネットワーク」に属する人が隕石調査のため、涼子の勤め先の宿泊施設に滞在するという。
「日本流星ネットワーク」は流星などの観測情報を交換している民間団体で、アマチュア天文家、大学や天文台の研究者、科学館の学芸員などで構成されている。
第五話『藍を継ぐ海』
舞台は徳島県「阿須(あす)町」。・・・ですが実際には阿須町という町はありません。架空の町です。
作中には「徳島県の南東部に位置する太平洋に面した港町」で、町の東には阿南市の蒲生田海岸が、西隣には美波町の日和佐があるとあります。どちらもウミガメの産卵で有名な場所です。

阿須町姫ケ浦地区に元漁師の祖父と二人で暮らす中学二年生の沙月(さつき)という女の子が主人公。沙月はウミガメが好きで知識も豊富。
この姫ケ浦海岸はアカウミガメの産卵地としても有名だが、堤防建設などの理由で年々ウミガメの上陸頻度が減っている。
数年ぶりにウミガメが上陸し産卵したのだが、この卵を沙月が「自分で孵化させる」といって数個ほど持ち出してしまう・・・。
↓ アカウミガメ

読んで感じたこと

その土地で生きた人が紡いできた文化を現代の人間がどのように受け継いでいくのか。その土地の自然を人がどのように守っていくのか。
現実世界でもたびたび課題となる継承していくということ。
本書の5話すべてに共通するのは「継ぐ」というキーワード。継ぐといっても、誰かに命令されたわけでもなく、でも自ら信念を持って継いでいくこともまた人間の営みのひとつなのだなと感じました。
人と人、人と自然。その物語に科学を織り交ぜてつくられた本書。
温かい気持ちになる物語でした。
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