さて、今回紹介する1冊はこちら。
『少年と犬』
【著 者】・・・馳星周
【出版日】・・・2020年5月15日
【文庫版】・・・2023年4月10日
【頁 数】・・・379ページ
著者はどんな人?
馳星周(はせ せいしゅう)氏は1965年北海道生まれの小説家。
ジャンルは主にノワール小説。
代表作に「不夜城」、「鎮魂歌 不夜城II」、「漂流街」、「黄金旅程」などがある。
競走馬の「ステイゴールド」のファン。
物語の概要
物語のスタートは東日本大震災の半年後。
飼い主が被災し孤独となったシェパードと他の犬種との雑種の「多聞(たもん)」という名の野良犬が本作の主人公。
仙台に住んでいた多聞がなぜか「南の方角」を目指して移動する。
南へ移動する道中に出会う、様々な事情を抱えた人間に癒しや希望、きっかけを与えるお話。
本書は以下の7種の物語で構成される短編集。
- 男と犬
- 泥棒と犬
- 夫婦と犬
- 少女と犬
- 娼婦と犬
- 老人と犬
- 少年と犬
それぞれの登場人物の事情、悩み、考え方・・・。それらの描写の中には多聞という犬がいる。
「人と犬」という関係に不思議な力を感じざるを得ない物語です。
読み終わって。
「犬と人との絆」だけではなく、主人公の多聞(たもん)という犬を中心に「人と人との絆」も描かれている本作。
一時的な飼い主となったそれぞれの人の視点から見た多聞の姿を主観的に描いており、作者が多聞の気持ちを表現することはありません。
「あなたが人間の言葉を話せたらいいのにね」、「お前は一体何を考えているんだろう」。
このように登場人物は多聞の賢い行動について答えを求めますが、相手は犬なので当然返事はありません。
状況や雰囲気で犬の行動の意味や気持ちを察することが出来ても、それは人間の感覚でしかない。
言葉が通じないからこそ飼い主は自分で考える。多聞はこうやって「気付き」を与えているのかもしれないと感じます。
登場人物が多聞と出会ってから別れるまでの時間は、その人の人生のほんの一部分でしかありません。
しかしその一部分のおかげで救われた、答えが出せた、という登場人物の声が聞こえてきそうな描写に惹きこまれました。
犬の持つ不思議な力
本作は「犬の持つ不思議な力」を感じざるを得ない感涙作。
私自身も6歳~18歳まで秋田犬を飼っていました。
体の小さかった子ども時代、思春期、将来に悩む高校生という多感な時期を一緒に過ごした犬は僕にとって「傍にいてくれるだけで安心する」と感じさせてくれた大切な存在でした。
転んでケガをしたとき、父親に怒られたとき、人間関係で悩んでいたときなど、辛いときはいつも傍にいてくれた秋田犬。
多聞にその犬を重ねながら読んだ本作。
人に薦めたくなる一冊です。
本の紹介
以下のような紹介記事もあるので、ぜひご覧ください!
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