今回紹介する1冊はこちら。
『ナースの卯月に視えるもの』
【著 者】・・・秋谷りんこ
【発行日】・・・2024年5月10日
【頁 数】・・・287ページ
著者はどんな人?
- 1980年神奈川県生まれ。
- 医学部看護学科を卒業後、20代から30代にかけて13年ほど看護師として働く
- 2020年からnoteで小説を書く
- 本作が創作大賞2023(note主催)「別冊文藝春秋賞」を受賞
- 本作がデビュー作
本書の特徴
主人公の「卯月 咲笑(うづき さえ)」という20代後半の女性は長期療養型病棟(完治の望めない人が集う病棟)に勤める看護師。
主人公は不思議な力を持っており、それは「患者が死を意識したとき、思い残しているものを視ることができる」というもの。
その「思い残し」は人の形で患者のベッドのそばに現れます。主人公の卯月は看護師として働く傍ら、患者の思い残しを解決してあげようと奔走する人間ドラマ。
著者が元看護師だけあって看護現場のリアルが描かれており、そこで働く医療従事者の苦労や終わりへと向かっていく患者たちの様子が描写されています。
「死」というテーマを扱う作品ですが、「思い残しが視える」というファンタジー設定を上手く溶け込ませており、患者の気持ちを最期まで汲み取ろうとする主人公の優しさに感動する作品。
以下は本書の「あとがき」からの引用。著者の本書に込めた想いが伝わる部分です。
主人公は患者の「思い残しているもの」を視ることができる能力を持っています。「思い残し」が卯月の前に現れるのは、患者が死を意識したとき。
このような不思議な設定にしたのは、私が向き合った患者さんの死を、いまだに忘れられないからかもしれません。
亡くなってしまったあの人は、最期に何を思っていたのか、汲み取りきれなかった思いを今なお知りたい。そういう気持ちが小説に滲み出ている気がします。
読んで感じたこと
心が温かくなる物語を定期的に読みたくなる僕が本屋で目にして手を取った一冊。
患者の思い残しを解決するというミステリー的要素を持たせつつ、患者一人ひとりに寄り添った丁寧な看護のリアル、看護師としての主人公の成長を感じることができ、心に沁みる感動作。
経験者の小説なだけあって看護師の苦労や裏側などの描写があり、患者やその家族としてお世話になるであろう自分にとって医療に対する気付きを与えてくれる一面もありました。
ジャンルで言えば「医療、ミステリー、人間ドラマ」などが付けられますが、個人的には「医療」の部分がもっとも浮き出た作品。
「生死」というテーマを扱っているので重たくなるかと思いきや「思い残しを解決する」というファンタジー要素を盛り込んでライトにまとめ、「人は必ず死ぬという現実」を多くの最期を看取ってきた元看護師ならではの表現で伝えられています。
人の命を預かるプレッシャーとその仕事のやりがいといった著者の経験をもとに、主人公が看護師として成長していく、切なくも温かい作品です。
ブログ「としけば!」にようこそ!